アステラス製薬
イクスタンジでパテントクリフ攻略、次代の柱に投資加速
2020/9/17 AnswersNews編集部 前田雄樹・山岡結央
19年度、複数の大型製品が相次いで特許切れを迎えたアステラス製薬。この難局を、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の売り上げ拡大でしのぎ、19年度は売上収益、営業利益とも前年並みを確保しました。近年は、がん免疫療法や遺伝子治療薬など次代の柱への投資も加速させています。
特許切れ相次ぐも前年並みの業績を確保
アステラス製薬の19年度の業績は、売上高が前年度比0.4%減の1兆3008億円、営業利益が前年度と同水準の2440億円となりました。この1年で、過活動膀胱治療薬「ベシケア」や抗がん剤「タルセバ」、喘息・COPD治療薬「シムビコート」などの特許切れに見舞われたアステラス。主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の売り上げ拡大で、打撃を最小限に抑えました。
パテントクリフ回避の立役者となったイクスタンジは、早期前立腺がんの適応で市場浸透が進み、グローバル売上収益は4000億円(前年度比20.1%増)に到達。過活動膀胱治療薬「ミラベグロン」(国内製品名は「ベタニス」)や、国内で販売する骨粗鬆症治療薬「イベニティ」なども貢献しました。
イクスタンジの好調は続く見込みで、20年度は売上収益全体の36.9%を占める4646億円を売り上げる予想です。転移性去勢感受性前立腺がんの適応では日米で承認を取得し、欧州でも申請済み。非転移性の去勢感受性前立腺がんでも、グローバルで臨床第3相(P3)試験を進めています。
次代の柱を生む「フォーカスエリアアプローチ」
19年度のパテントクリフは乗り越えましたが、ミラベグロンは23年ごろから、イクスタンジは27年ごろから特許が切れ始めるとされています。アステラスは、イクスタンジや白血病治療薬ギルテリチニブ(国内製品名「ゾスパタ」)、更年期障害に伴う血管運動神経症状に対する治療薬フェゾリネタントなど重点開発6品目の開発に経営資源を優先的に投入する一方、将来の収益を担う技術や領域への投資も加速させています。
その1つががん免疫療法で、18年度には米ポテンザ・ファーマシューティカルズを買収し、新規免疫チェックポイント阻害薬「ASP8384」(抗TIGIT抗体)など3つの新薬候補を獲得。鳥取大から開発権を獲得した腫瘍溶解性ウイルス「ASP9801」や、理化学研究所から導入したaAVC製剤「ASP7517」と合わせ、がん免疫では5品目がP1試験を実施中です。
もう1つは遺伝子治療で、19年度に米オーデンテス・セラピューティクスを買収しました。オーデンテスは、希少神経筋疾患を対象に、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使った遺伝子治療薬を開発するバイオテクノロジー企業。AAV技術の開発プラットフォームと大規模生産能力を手にしたことで、遺伝子治療への参入に本格的に踏み出しました。
アステラスは、「バイオロジー」「モダリティ」「疾患」の組み合わせで研究開発テーマを選ぶ「フォーカスエリアアプローチ」という手法をとっており、がん免疫も遺伝子治療も、そうした手法によって優先的に資源投入する「プライマリーフォーカス」に選定された分野。プライマリーフォーカスにはこれら2分野を含む5分野が選ばれており、積極的な研究開発投資が行われています。
さらに、アステラスが持つ医薬品ビジネスの経験に異分野の先端技術を掛け合わせて新事業を創出する「Rx+」の取り組みも加速させています。20年9月には、科学的根拠に基づいたフィットネスサービスの提供を開始。バンダイナムコエンターテインメントとは、ゲーム性を取り入れて継続性を高めた運動支援アプリを開発中です。
中国を新たな主戦場に
新薬開発とともに力を入れているのが、中国市場の開拓です。
19年4月にはコマーシャル組織を再編し、中国への取り組みを強化。販売部門を「日本」「米州」「EMEA」「アジア・オセアニア」の4つから「日本」「米国」「グレーターチャイナ(中国・香港・台湾)」「エスタブリッシュドマーケット(欧州・カナダ・オーストラリア)」「インターナショナル(ロシア・中南米・中東・アフリカ・東南アジア・南アジア)」の5つに再編しました。市場拡大に期待がかかる中国を独立させ、資源投入を加速させるのが狙いです。
イクスタンジは、中国でも19年11月に転移性去勢抵抗性前立腺がんを対象に承認を取得し、非転移性の適応でも申請中。ゾスパタも再発・難治性の急性骨髄性白血病の適応で申請しており、重点開発6品目すべての市場投入を目指して開発を進めています。
19年度、グレーターチャイナの売上収益は前年度比6.4%減の604億円でしたが、アステラスは2020年代後半に2000億円まで拡大させたい考え。20年度は12%増の676億円を見込んでいます。
新薬メーカーにとってパテントクリフはビジネス上の宿命。次の「崖」は19年度よりもさらに高くなります。果たしてどう乗り越えるのか。向こう数年が正念場となりそうです。
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